納得のいく人事評価ができなければ、能力給は機日本賃金研究センターのK代表幹事によると、昭和40年代にも年俸制ブームがあったが、大きなプロジェクトに参加すると、最初の一年は成果が全く上がらないかもしれない。
これをどう評価するかなど、厄介な問題がいろいろ横たわっている。K氏は「3年単位ぐらいで評価したら、うまくいくかもしれない」と言っている。
「年俸制」と言いながら、一皮剥けば、運用は年功重視というものもあり得る。
成果を測るよい方法が見つからなければ、勤続年数や年齢が最も客観的な評価基準だからだ。
7転8倒して下方硬直的な年俸になり、今までとあまり変わらないというケースもある。
産能大学がまとめた93年度新入社員の会社生活調査によると、年俸制支持が40・6%にのぼり、「望まない」の19・9%を大幅に上回った。
「年功序列を望まない」というのも23・4%あった。
「業績によっては退職勧奨も仕方ない」という勇ましい答えも51・9%もあり、中高年サラリーマンとは考え方にだいぶ違いがありそうだ。
しかし年俸制を支持する新入社員は、恐らく、自分達は厚遇される方だと漠然と期待しているのではないか。
まさか退職勧奨を受ける可能性があるなど想像もしていないだろう。
自分についてはなかなか客観的に見られないのが人間の常である。
こういう人たちを納得させる賃金制度が確立しない限り、成果に賃金を払うと言っても絵に描いた餅である。
能力主義は、結局、恋意的なものだと受け取られると、かえって不満をかき立てることになりかねない。
しかし多くの難しさを抱えながら、それでも企業は「能力給制度」を様々に工夫している。
最近考案されたケースを見てみよう。
例えば、M造船は企業風土改革のてことして、月例賃金やボーナスの制度を能力主義をベースに1992年に大幅に改定した。
資格等級制度も含めた新しい人事制度として一括して改正したわけだが、大きなポイントは課長前の30歳代の課長補佐、主任クラスの活性化にあった。
同社では、この総括1〜3級の資格を一括して「総括職」という職群名で呼んでいる。
第一線で中心になって仕事をしている層で、処遇を誤ると「新しいM造船を創る」という経営目標は水泡に帰す。
同社の管理職は約千2百人で、課長候補である課長補佐の総括2級、3級は千5百人から千6百人程度いる。
総従業員数約6千7百人に占める比率も高い。
具体的には、総括職の賃金はすべて「能力給」に切り替えた。
また総括職の課長補佐については、残業代も「手当」にして、成果を査定して決める方式に変えた。
さらに総括職群に移るところで、1万4千円の「職群変更昇給」を行ってかさ上げする仕組みにしている。
同社では、入社するとホワイトカラーもブルーカラーも「基幹職」という職群に入り、まずA1の資格を与えられる。
そこからEまで基幹職の資格があり、大卒従業員はC1まで上がると、職群変更試験を受けられる。
これに通れば、総括1級になり総括職群に替わる。
改定前は、ホワイトとブルーの資格が分かれており、それぞれ8段階の資格があった。
賃金は両方とも「年齢給」「勤続給」「資格給」「職能給」で構成されていた。
文字通り年功を反映する「年齢給」が全体の4割程度を占めていた。
これを総括職では無くして、「資格給」36%、「職能給」64%の構成に変えたのである。
一般従業員に当たる基幹職は「年齢給」44%、「資格給」18%、「職能給」38%で、基本的には旧資格制度の賃金とあまり違っていない。
総括職は管理職予備軍だから、能力、実績に応じて賃金にめりはりを利かそうというわけである。
資格給は昇格によって、職能給は昇格、定昇によってそれぞれ決まる。
特徴があるのは、資格給に再評価制度を設けている点である。
毎年春に能力を再評価してアップダウンさせる。
総括職の各資格の資格給は、それぞれ月額3千円から5千円の刻みで7ランクに分かれている。
昇格して新しい資格に入ると、真ん中に位置する第4ランクにつけられる。
翌年から、評価によって上21ランク、下3ランクの幅で上下するわけである。
例えば、総括1級の場合は、第一ランクは第4ランクより一万5千円高い。
問題は、資格給、職能給を決める昇格と定昇が実際に能力主義に基づいて決まっているかという点である。
これまでに書いてきたように、制度は能力主義でも実態は違うという例が少なくない。
M造船の新制度は、ボーナスのための半期ごとの考課と年度考課が累積して、自動的に昇格、昇給を決める仕組みになっている。
つまり毎年の実績を、昇格、昇給にはっきりリンクさせたのである。
旧制度では、夏季、年末のボーナスと年度考課はそれぞれ独立しており、昇格はその期の実績とは別の総合評価で決まっていたため、透明度がいま一つ足りないとの批判があった。
新制度では、ボーナス時にそれぞれ6点法で考課され、可も無し、不可も無しだと3点がつく。
これでボーナス査定が決まる。
年末も3点とした場合、この夏季、年末を合わせた6点に対して、調整加算をして年度考課を決定する。
調整加算では、半期ごとでは評価しにくい能力伸長や現状改革の度合いなどを加味して、0から2点まで加える。
これを2点とすると、年度考課は8点になるわけだ。
これで対応する昇給点が自動的に決まり、この昇給点と定期昇給単価をかけ算して職能給の定昇ともに上がる。
額を算出する。
この通り実績、能力の考課を積み上げるシステムなので、設計上は年齢や勤続年数などの要素が割り込めないようになっている。
昇格も基本的には同じことで、総括1級の主任から総括2級の課長補佐に昇格するケースで説明しよう。
前述の年度考課は8点。
総括2級への昇格条件を見ると、累積点が11点以上で、しかも直前の点数が4点以上でなければならない。
もし累積点数が11点以上になっていれば、直前点が8点だからめでたく昇格できる。
考課が最高点の14点なら一年目で点数は合格だが、各資格には必要経験年数をきめている。
この場合は2年なので、翌年、直前点が4点以上であれば昇格できる。
昇格すれば、資格給、職能給課長候補の課長補佐(総括2,3級)は既述の通り、残業代が職務手当になっている。
これは8年から実施しており、基本給の一定のパーセントを固定し、業績評価で上積みする方式をとっている。
Fがこれから導入を予定しているものと考え方は同じである。
このクラスは時間で仕事をしているのではないから、成果で測ろうというわけである。
方向を社内外に発表した。
1917年、M物産造船部として産声をあげてから石油ショックまで、造船王国日本の有力メンバーとして、海運業を支えるとともに輸出立国の先兵として走り続けしかし石油ショック、円高と何度も荒波に操まれ、つい最近まで合理化に明け暮れていた。
75年に約一万8千人いた人員は、3回の人員整理で6千人台まで減少した。
売上高も82年3月期決算の3千6百40億円をピークに縮小し、93年3月期には2千8百507億一千4百万円である。
90年に復配して、これからを考えた時、ぼやぼやしていると「時代から取り残されるのではないか」という危機感が経営陣を襲った。
「伝統とMの信用」があるから、今日、明日にも困るというわけではない。
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